愛宕山

1867は幕末のピーク、狂った丁卯の年に愛宕山が火を噴いた。

あれから32年、神の怒りが冷めたにしては歪な溶岩はどす黒く、熊も立ち止まる漆の森を抜けると、見通しのよい杉林が出口を閉ざす。愛宕山には何かいる。希代の博物学者、南方熊楠なら迷わず遭難を選び、笑顔で森をさまよい収集に明け暮れるだろう。深山には噴火の爪痕を癒やす菌類に、人懐っこい蛾が群れていた。